行政書士戸籍謄本等不正取得事件の概要と今後の闘い

 

 はじめに

 

 またしても悪質で大規模、重大な部落差別事件が発覚した。行政書士戸籍謄本等不正取得事件である。兵庫、大阪の行政書士三人が興信所と結託して、身元調査をするために他人の戸籍謄本、原戸籍などを不正に取得していたのである。その範囲は佐賀県を除く46都道府県に及び、件数は全国で2000件近く、広島県内で約70件にのぼる。

 この事件は1975年に発覚した『部落地名総鑑』事件、1998年に発覚したアイビー・リック社身元調査事件に匹敵する重大で深刻な部落差別・身元調査事件である。

 86年及び96年の「地対協意見具申」が部落問題の解決のための国及び地方自治体の行政責任を放棄するために述べたこととは裏腹に、部落差別はより巧妙、陰湿な形で現存していることを私たちに教えている。

 今回の事件の全容を明らかにし、その背景を掘り下げる中から、二度とこのような事件を起こさせないためのシステム作り、そして、部落差別を完全撤廃するための人権政策を確立するために全力をあげなければならない。

 

 事件の発覚とその概要

 

 2004年12月、興信所を経営しているGと金銭貸借を巡るトラブルで裁判で争っている兵庫県加古川市のAさんから部落解放同盟兵庫県連に相談がよせられた。

 Aさんからの相談を受けているうちに、Gの業務日誌からGが神戸市内のY行政書士に手数料を払って職務上請求書を使って他人の戸籍謄本等を取り寄せていることがわかった。また、その業務日誌には「地名そうかん返せ」などと、興信所同士で部落地名総鑑の貸し借りがあると受け取れる記述があることも判明した。ここに全国にまたがる行政書士による大量の戸籍謄本等不正取得事件へと発展する事件が発覚したのである。

 兵庫県連は重大な差別事件であるとして、全容解明に向け、取り組みを開始。Y行政書士に対する確認会で、以下のことが明らかになった。

 それは@01年5月ごろ、仕事の依頼が少なく、もっと仕事を取りたいという思いから、電話帳で調べた興信所五社に「住民票や戸籍謄本を取り寄せます」旨のファクシミリを送付。ファクシミリを送っていない興信所も含め六社から依頼が来たA01年から04年2月までの約3年間、6社からの依頼で約800枚の職務上請求書を使い、不正請求。特に、兵庫県内の興信所経営者Gからの依頼が多く、半数の約400枚はGから依頼のあったものであるB請求書の使用目的の欄に「調査」「添付資料」、提出先に「依頼人」と記述し、自治体に提出すると、ほとんどの自治体で交付を受けたC1枚あたり3000円程度で興信所と取引していた――というもの。

 また、G興信所は「身元調査の依頼の内、9割が部落出身かどうかを調べるものである」と証言している。 宝塚市のK行政書士にかかわっては、兵庫県が行政書士法に基づき聴聞を行い、1000枚を超す職務上請求書を使用していること、1件当たり1万円の報酬を受け取っていたことがわかった。

 大阪市のT行政書士については、何年間にわたり、何件不正取得をしていたかは、現在のところ確認できていない。

 

 情報開示請求の取り組み

 

 このような事実が判明したことを受けて、広島県連は糾弾・行政闘争本部会議を開き、@三人の行政書士による職務上請求書を使って戸籍謄本等が不正取得の実態解明に向けて、公文書開示請求を県内の全自治体に行うA職務上請求書で戸籍謄本等の請求を受け交付した自治体に対しては、戸籍謄本等を取られた本人に告知をするよう求めるB広島県行政書士会へ実態解明、再発防止策を講じることなどを求めて申し入れをする――ことを決め、取り組みを開始した。

 公文書開示請求の取り組みで明らかとなった三行政書士による不正取得件数は表の通りである。(06年2月末現在・アルファベットは行政書士名、数字は件数)

 

 

自治体名

 

 

 

K4

 

K2

 

K1

 

13

T1

 

K5

T2

 

K2

Y1

K2

 

Y1

K8

T1

開示請求で判明した件数

 

 

K4

 

K2

 

 

K6

 

K4

 

Y1

K2

Y1

K6

県法務局調査・中央本部集約件数

自治体名

 

 

 

 

 

K1

 

 

Y5

K31

T60

Y1

K5

 

K1

開示請求で判明した件数

 

 

K1

 

K1

 

K1

Y2

 

K2

Y10

K11

Y1

K5

 

K1

県法務局調査・中央本部集約件数

 

 


































 県行政書士会への申し入れ

 

 県連は9月20日、広島市内にある県行政書士会を訪れ、以下6項目の申し入れを行った。

1、三行政書士が広島県内で「職務上請求書」を使って、第三者の戸籍謄本等を取得したその具体的実態を広島県行政書士会は把握しているか。把握していれば、その情報を提示すること。

2、「職務上請求書」の行政書士への払い出しの方法、管理が今現在、どのように行われているか。

3、県行政書士会所属の行政書士の中で、「職務上請求書」の払い出しが他の会員と比べて著しく多い会員がいるか。いればその実態を明らかにすること。

4、今回のような「職務上請求書」不正使用の再発防止策をどのように講じているかを明らかにすること。

5、「職務上請求書」不正使用に対する制裁措置をどのように講じているかを明らかにすること。

6、「職務上請求書」の適正使用、個人情報保護法や人権擁護のための研修の実施計画を明らかにすること。

 

 これに対して県行政書士会からは九月二六日付で、以下のとおり文書による回答があった。

 (1)記1について

   そのような実態があったことは知らない。

 (2)記2について

 この事件を契機として、日本行政書士会連合会(以下「日行連」という。)において、別添「職務上請求書の適正な使用及び取扱に関する規則」(以下「規則」という。)が制定され、本年七月二〇日から施行された。

 その第四章に、各県行政書士会(以下「各単位会」という。)による「払出し手続き」及び「払出し履歴管理」の方法等が明確に規定されており、現在は、この規則の定める手続き等を厳守することとしている。 払出方法、管理方法の概略は次の通りです。@従来、各単位会が作成していた職務上請求書は日行連が作成、各単位会に配布し、各単位会において行政書士本人に限って払い出す。A払出に当たっては、職印を押印した「購入申込書」、「誓約書」及び「使用済み職務上請求書」の提出を求め、規則に定める事項を確認するとともに、払い出した職務上請求書にかかる事項等については、会員ごとに「払出履歴管理表」によって管理する。

 (3)記3について

 専門とする業務によって増減はあるが、著しく多いと認められる者はいない(多いと認められる者で、年間8冊程度)

 (4)記4について

 規則に定める払出し手続及び払出し履歴管理を厳守することによって、再発を防止したい。

 (5)記5について

 職務上請求書の不正使用に限らず、当会会員が行政書士法、本会会則等に違反した場合、または、行政書士に行政書士たるにふさわしくない非行等があった場合等には、本会会長からの依頼による綱紀委員会の調査に基づき、戒告、権利停止または廃業勧告の処分を行うことになる。

 (6)記6について

   日行連からも、人権研修の必要性及び実施を促す文書がきていることから、専門研修の機会等をとらえて、必要な研修を実施したい。

 

 本人告知の取り組み

 

 本人告知の取り組みは全国に先がけて、瀬戸田町、続いて福山市が行った。

 この本人告知の取り組みは、自己情報コントロール権を市民に保障するという意味において重要なことであり、その個人情報を収集し、管理する権限を与えられている地方自治体は、同時に適正な取り扱いをする責務があるという意味において、すべての自治体が当然にも行わなければならないことである。

 また、事件の全容解明という観点から見ても非常に重要である。これによって、事件の背景にある興信所による身元調査、そして、そのまた背景にある部落差別の現実を解明することができるからである。

 福山市がこの取り組みをした結果(06年2月末現在)、6件の内2件は結婚にかかわって戸籍謄本等が不正取得されたものと推測されることが判明した。

 

 戸籍制度の改革を視野に入れて

 

 事件の背景には、明らかに部落差別に基づく身元調査がある。興信所などによる身元調査をやめさせるためには、戸籍制度の抜本的改革(廃止を含めて)が必要である。

 戸籍研究者の佐藤文明さんは、戸籍制度は日本にしかなく、明治政府が国民支配の一貫として作り出したものと指摘している。また、国連「コンピュータ化された個人情報ファイルの規則のためのガイドライン」十原則には「非差別の原則があり、これはセンシティブ情報といわれる事項を定めた条項で、『人種又は民族的出身、皮膚の色、性生活、政治的意見、宗教的・思想的またはその他の信条、労働組合や結社の会員であることに関する情報を含め、不法なあるいは恣意的な差別を生む恐れのある情報は蓄積されてはならない』と明記されている」と指摘している。

 戸籍は差別と国民管理のためのものであり、センシティブ情報に溢れている。事件の全容解明の取り組みから、部落差別や婚外子差別に利用され続けている戸籍制度の抜本的改革につなげていかなければならない。

(『部落解放ひろしま』06年1月号掲載原稿に一部加筆修正した)