(社)全国市有物件災害共済会中国支部職員
                差別事件について

1、はじめに

 「『ヨツ』が多いので気をつけよ」。このような露骨な差別発言をする事件が、2003年6月17日に起きた。()全国市有物件災害共済会中国支部職員差別事件である(以下、共済会差別事件と言う)。県連は4回の確認会、糾弾会を開き、共済会本部及び発言者本人が今回の差別事件の総括と反省を提示するという一定の成果を収めて、糾弾会を終えた。

 また、今回の糾弾闘争を通じて、差別撤廃に向けた有効な手段の一つである差別に対する「規制・救済制度」を創設する上で教訓とすべき点、課題も明らかになった。

 以下、事件の内容、取り組み経過、成果と課題などを報告する。

2、事件の概要

 全国市有物件災害共済会(以下、共済会)は、市有の建物、工作物、建物内に収容される動産などの損害を相互救済する事業を行うために設立された社団法人で、自動車損害賠償責任保険代理店業務も行っている。本部は東京で、全国9ブロックに支部があり、中国支部は広島市中区役所内にある。本部の理事長は03年6月現在、大阪市長。中国支部長は広島市長が務めている。

 6月17日、福山市人権推進課職員が起こした自動車事故の処理について、同市役所管財課車両係の事務所で管財課職員2人、人権推進課職員2人に対して共済会中国支部査定調査役Yが指導をしている途中で、Y調査役が以下の発言をした。(一部、略)

 Y  「ここだけの話にしてもらわないと困るんですが、私は現在の仕事の前はN火災に務めていたのですが、そこで東部の(福山の)ほうはヨツの関係が多いから、そういう人に、治療を無理強いされるようなことがあってはいけないということを聞いたことがあるので、気をつけてください」。

 市職員「あなたはそうしたことを経験したことがあるんですか。あるいは、あなたの同僚の方が経験したことですか」

 Y  「いいえ、そういうことは聞いたことがありませんし、私自身も経験したことはありません」

 市職員「『よつ』という言葉は明らかな差別発言ですよ」

 Y  「申し訳ありません」

 その後、市職員がYに発言の問題点を指摘し、ほぼ話が終わった頃、以下のやりとりが行われた。

 市職員「何か疑問やお聞きになりたいことがありますか」

 Y  「尾道小学校(高須小学校)長の自殺問題等について、疑義を持っています」

3、取り組みの経過

 @4回の確認会で明らかになったこと

 第1回確認会で、Yは自身の発言についてほぼ認めたが、「ヨツ」という発言については、「私は『部落問題があって』と言った。みなさん(市の職員4人)がそういうふうに言われると、言ったかも分かりません」と繰り返した。

 そのため、県連からは「『ヨツ』という発言が、仮に『部落問題』であったとしても、差別発言であることに変わりはないが、事実を認めて反省するのと、事実をあいまいにしたままで反省するのとでは大きな違いがある。虚心坦懐に反省してほしい」などと指摘。事件当時、Yの発言を直接聞いた4人の市職員一人ひとりから、当時の様子を説明してもらい、共済会側に対して、「きょうのやりとりを参考にして、Yと共済会内部で話をし、1か月後に2回目の会を持ちたい」と提起し、閉会した。

 第2回目は1か月を待たずして、共済会側からの申し出があり、1027日にもたれた。

 Yは冒頭、「ヨツ」という発言をしたことを認めため、事実の確認は終了。「発言の背景」についての議論に移った。

 県連からの問いにYは、@30年前に会社(N火災)の研修後、酒席で同僚が「部落問題という問題があって、治療が長引かされて事故の解決に困っている」と言っていたのを聞いたことがあるA20年前に会社の同和問題研修で「ヨツ」は隠語で、言ってはいけないと聞いたBその他に部落問題との出会いはない――などと繰り返した。また、「高須小学校長の自殺問題等に疑義を持っている」という発言について問うと、「校長という教育者が子どもの見える所で自殺をしたことに疑問を持った」などと辻褄の合わない答えを繰り返した。

 県連からは@30年前の同僚の発言が本当に「部落問題の問題」というものだったのかA30年前と20年前の経験以外に部落問題との接点がない中で、あの発言が出る必然性がないB高須小問題についてのYさんの答えには「疑義がある」C命さえ奪う部落差別をなくすために、差別事件の背景を明らかにし、それを生み出した社会のありようを変え、啓発課題にしようとこの会を持っているDYさんも言うなれば、部落差別の被害者。Yさん個人にただ謝罪を求めているわけではない。虚心坦懐に反省し、偏見を持たされている人間から差別をなくす人間に変わってほしい――と提起した。

 最後に、1か月をめどに共済会として、@事件の内容A問題点B背景C課題――を文書にまとめ、次回の話し合いを持つことを提起。その際、広島市行政にも出席要請をすることを確認。共済側もこれを了承し、会を終えた。

 第3回目では、前回に引き続いて差別発言の背景について問い質したのに対して、Yは新たに、「30年前に部落の人が大勢で市民をいじめたという内容の本を読んだことがあり、怖いというイメージを持った」と回答した。

 県連からは「どんな類の本か」を質したが、あいまいな答えを繰り返したため、就職差別や結婚差別などの事例を挙げながら、「多数によるいじめの被害者は差別を受けている部落の方であり、仮にその本が被差別者による抗議を内容とするものであったなら、抗議をするのは人間の尊厳を守るための当然の行為。差別の目で見ると加害者と被害者が逆転して見える」と指摘し、「もう一度、自分を振り返り、それを文書にまとめてほしい」と提起した。Yはこれを了承した。

 また、共済会が提出した「まとめ」については、「今後の研修で差別意識をなくす」とあるが、決意だけでは不十分。差別をなくすという「問題解決力を身につける」ための研修プログラムが必要――と指摘した。

 さらに、中国支部の事務局市である広島市行政が話し合いへの出席を拒否し、「法務局の指導に委ねる」という姿勢をとっていることを批判するとともに、被差別当事者との連携・協議が重要と指摘した。

 今回の論議を踏まえて、再度、「まとめ」の文書を作成することを要請し、共済会側もこれを了承した。

 第4回目では、Yは「反省文」で自身の発言を深く反省しているとした上で、「この会でいろいろ話を聞き、差別を許さない立場に立つことの大切さがわかりました」とした。また、共済会はまとめの文書で、@事実確認に4か月も要してしまったことAこれまで人権問題の研修をしてこなかったこと――などを反省。今後の課題として@表面的・対策的な研修ではなく、差別をなくしていくための研修を継続的かつ果断に取り組んでいくAそのために本部及び全支部職員から委員を選出し、7月に設置した「人権啓発推進委員会」を積極的に活用していく――ことなどを明らかにした。

 協議の中では、県連側はYに対して差別の具体的な事例を出しながら「Yさんは部落に対して『怖いというイメージを持っていた』と率直に認められたが、被差別当事者にとっては差別が命さえ奪う『怖い』ものだということの『想像力』を身につけてほしい」と訴えた。

 また、事件発覚後、事実確認と県連との話し合いが遅れた背景には、法務局の共済会中国支部に対する誤った指導があったことを指摘。共済会は法務局から@差別発言は残念で許し難いものA特定の運動団体が参加する事実確認会には出席する必要はない――など4点の指導を受けたことを明らかにし、一旦は「県連との話し合いに出ない」と返事をしたことの非を認めた。

 最後に、県連は共済会としての今後の取り組みに期待している旨を述べ、共済会本部の総務部長は「有意義な話し合いをさせて貰った。指摘事項を踏まえ、差別をなくす力を身につける研修をしていきたい」と決意を述べた。

 A差別者擁護機関の役割しか果たさない広島法務局と行政責任と主体性を放棄した広島市――「地対協」路線の反人権性

 県連は広島市行政に確認会への出席を求めていたが、担当課の人権啓発部地域担当課長から「出席できない」との回答があったため、1110日付文書で秋葉忠利市長に直接、質問書を出し、その回答が17日付で送られてきた。その内容は地域担当課長の口頭での回答とまったく同じもので、「出席拒否」は市長を含めた広島市行政全体の意思だということが明らかになった。

共済会職員のY調査役が発言をした内容は「東部のほうはヨツの関係が多いから気をつけてください」という明々白々たる差別発言。Yは広島市在住の市民であり、行政として啓発課題を把握するためにも広島市行政が発言者本人と被差別当事者、発言を聞いた本人と関係行政などが行う話し合いに出席することは当然のことだと考えられる。ましてやY調査役は共済会中国支部の職員であり、その最高責任者の支部長が広島市長であることを踏まえれば、この回答がいかに一般的常識からも外れているかがわかる。

 広島市は回答の中で、「出席できない」理由として、市同和対策推進審議会から「差別事件の対処については、人権擁護機関・司法機関等の公的機関において中立公正に行われるべきである」と提言されたことをあげている。

 これは86年以来の「地対協」路線の一番悪い部分だけを踏襲したものである。人権救済制度の議論の中で人権委員会を法務省の外局に位置づけることに全国的な反対の意見が強まっているのは、これまでの法務局人権擁護部が人権擁護の機能を果たしておらず、逆に差別者の「かけ込み寺」になっていることがすでに実証済みだからである。

 今回の差別発言の件でも、広島法務局は共済会中国支部から相談を受け、「解放同盟との話し合いに出ない方がよい」と指導していたことも判明している。その結果、共済会も一時期、県連との話し合いを拒否していた。しかし、各方面からの説得・アドバイスもあり、最終的には「迷惑をかけた者が迷惑を受けた人と話をするのは当然」というごく、常識的な判断から出席することを決めたのである。

 広島市はその経過についても十分承知のうえで、市審議会意見を持ち出して、その正当性を装っている。

 記憶にまだ新しい広島市中学校教師結婚差別事件で広島市行政は「二度とこのような痛ましい事件が起きないように全力をあげる」と誓ったはず。この事件でも法務局は人権擁護のための役割は一切果たしていない。このことも十分承知のうえで、「差別事件への対処は法務局に委ねている」とする広島市行政の姿勢は断じて許されるものではない。

しかし、県連としては、広島市行政が出席しないから問題が解決できないとは考えていない。Y調査役本人や共済会役員との話し合いを着実に進め、教訓を導き出し、成果をあげてきている。さらに、人権救済機関を法務省の外局に位置づけると、広島市行政のように「加害者とは会うが、被害者とは会わない」という自治体が増え、そのことが合法化されるという「反面教師」として教訓化することができたと考えている。

            トップに戻る