東京高裁第五刑事部・高橋省吾裁判長は、1月23日付で、狭山事件の第二次再審請求の異議申立を棄却する決定をおこなった。弁護団は、この異議審でも8通もの鑑定を提出し、事実調べを求めたが、高橋裁判長もまた鑑定人尋問をまったくおこなうことなく、一方的に弁護団の主張をしりぞけた。わたしたちは、満腔の怒りをもって抗議する。
今回の異議申立棄却決定は、弁護団提出の新証拠の内容に触れることなく、しりぞけたものであり、ただ再審請求棄却決定を追認しただけである。とりわけ、この異議審では元警察鑑識課員であった齋藤保・指紋鑑定士による3通の鑑定が出され、狭山事件の唯一の物証である脅迫状をめぐって、多くの新たな疑問が明かにされた。脅迫状の宛名である被害者の父親の名前が犯行当日より前に書かれたという指摘や筆記用具が自白と食い違っているなど真犯人が石川さんではありえないことを示す新事実に多くの国民が注目していた。
しかしながら、異議申立棄却決定は、元鑑識の専門家による鑑定にたいして、なんら理由を述べることなく、「独断にすぎない」「推測の域を出ない」などというだけでしりぞけている。また、狭山弁護団は、昨年、裁判所の認定にしたがって脅迫状を作成する実験をおこない、指紋が検出されることを明かにした。犯人の残した脅迫状に、当日触れた被害者の兄や警察官の指紋が出ているにもかかわらず、石川さんの指紋が出ていないことは石川さんが脅迫状に触れていない以外に考えられない。このことを長年指紋検査に従事した齋藤保・鑑定人が自白の再現実験にもとづいて指摘した鑑定にたいしても、なんら中味に触れることなく、「実験条件が正確に再現できたものか明確ではない」というだけでしりぞけている。
狭山事件には市民常識として数多くの疑問がある。ところが、異議申立棄却決定は、再審請求棄却決定と同じように、このような数々の疑問点を推測や可能性でごまかし、あげくは「自白内容は、ありのままを述べた正確なものは、必ずしもいえない」などとして自白と客観的事実との食い違いを無視しているのである。
このような異議申立棄却決定は、最初から「棄却決定ありき」という姿勢と言わねばならず、裁判所の姿勢にまったく真摯な態度を見ることはできない。このような棄却決定がまかり通るようでは、「無実の者を罰してはいけない」という再審制度の理念も、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則ももはや無いに等しいといわねばならない。
東京高検は、積み上げれば2メートル以上という多数の未開示証拠を手元に持っていることを認めながら、いまだにまったく証拠開示に応じていない。弁護団は、高橋裁判長に対して、刑事訴訟法279条に基づいて検察官手持ち証拠の内容照会、証拠リストの開示を求めていたが、それにはまったく触れないで棄却した。
狭山事件は39年になろうとしている。63歳になった石川一雄さんは無実を叫びつづけている。人権の世紀といわれ、司法改革のなかで人権感覚と市民常識が問われている今、このような司法の判断が出されたことに、強い疑問と憤りを感じる。昨年は同じ東京高裁第五刑事部の裁判官の犯罪が裁かれ、司法にたいする信頼が問われた。全国に狭山事件を考える住民の会も広がり、学者・文化人らが狭山事件の疑問や証拠開示について意見広告を出したように、公正裁判を求める声は大きく広がっていた。異議申立棄却決定に断固抗議し、わたしたちは、石川一雄さん、狭山弁護団とともに、なんとしても再審を実現し、えん罪を完全に晴らすまで、断固闘うものである。
2002年1月24日
部落解放同盟中央本部
執行委員長 組坂繁之