2006年 11月 29日
11月16日「教育基本法改正案」が、衆議院本会議において与党などの賛成多数で通過した。
政府案は現基本法の「この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」という部分を削除している。もとより教育は憲法の理念を具体化することにその目的・意義があり、今回の改正案は、憲法と、教育のあり方を分離する意図でつくられている。
また、「個人の尊厳」を基調とした憲法に反し、政府案は「国家のために個人が存在する」「国の利益・繁栄に寄与する資質を備えた国民の育成」がベースになっている。これは自民党の「新憲法草案」十二条に「公益及び公の秩序維持」を新しく導入し、「公益」「公の秩序」の最優先が謳われている事と連動している。
さらに、二条の「国を愛する態度を養うこと」が「愛国心教育」につながることは必至で、思想・信条の自由、内心の自由を侵すことになるのはわが国の歴史が明らかにしている。自己決定権を全く無視し、ひとつの方向に向かわせ、戦時に突入する流れは、「違憲」そのものである。教育基本法「改正」が改憲の一里塚と言われる根拠である。
「美しい国日本」の安倍首相は「志ある国民を育て、品格ある国家・社会をつくる」ことを政府案の教育目標にしていると言う。はたして、この目標をかかげることで、教育現場に起きている不登校、いじめ、教職員の中途退職、世界史未履修問題、自殺などの問題が改善・解消されていくだろうか。
「改正」案は教職員に今以上の管理を押し付け、「子どもを支え、その可能性をのばす」ことでなく、国家の掲げる「教育目標」を達成することに全力を注ぐことを暗黙のうちに強要するであろう。
安部首相は15日の衆院教育基本法特別委員会で「いじめや高校の必修科目未履修問題で、学校や教育委員会の規範意識が欠けていると指摘されている。その観点からも、教育基本法改正案を成立させた上で、教育再生会議で今の状況に応えられる対策の中身を議論したい」「公教育の再生は絶対必要だ。教員免許更新制の導入、研修の充実、優秀な教員の表彰を実施したい。メリハリをつけた教員の給与体系も大切ではないか」と論戦を交わしている。
「改正」で恣意的教育がはびこる上に、教育への市場原理導入で、ますます教職員の分断、生徒不在の教育実践、生徒の学校離れが進むであろう。
こどもを取り巻く環境は悪化の一途を辿るが、「逃げ場」のない世界に、「死」を選ぶ心の闇に光をあてるのは、人間と人間との支え合いしかない。人は他者によって絶望のふちに追いやられもするが、他者によって救われもする。自由で豊かな人間関係の中で、苦悩や軋轢を克服していく力がついていくのである。
今の学校や地域にそれを醸成する「栄養素」はなくなってきている。教職員は、子どもに寄り添うどころか、報告書提出と研修に追われ、深夜までパソコンに向かっている。地域においても、家庭間の付き合いも薄くなり、地域の安全神話は崩れている。今、子ども達に必要なのは、「公共の精神」ではなく、「自尊心を育てる豊な人的教育環境と個人の自立的意志の発揮できる学校体制」である。
子ども達の笑顔が教育の目標である。
(M・Y)
『解放新聞広島県版』 2006年11月29日 第1847号